ウイスキーの「ピート」とは何? スモーキーな香りを生み出す秘密

ウイスキー特有のスモーキーなフレーバーとしてファンを魅了する「ピート」香。正露丸のような薬品臭であったり燻製香であったり独特な香りが特徴的です。特にスコットランドのアイラ地方で作られるスコッチウイスキーはこのピート香が強いことで有名です。果たしてピートとは一体何なのか?

ここではピートが生まれる仕組みと、おすすめのピート感じるウイスキーを紹介します。

ピートとは何?

まずはピートに関する基本情報をまとめましょう。

ピート(泥炭)は植物が地中で炭化したものです。ピートは、ヘザーやヒースなどの植物や、コケ類やシダなどの水生植物、海藻などが長い年月をかけて堆積したもの。アイルランドでは「ターフ」、日本では「泥炭(でいたん)」と呼ばれます。泥炭がたまっていき、蓄積した場所が”泥炭地”という湿地帯になります。

石炭の一種なので可燃性があり、ピートが豊富なスコットランドでは古くから、よく乾燥させたピートが燃料として利用されてきました。今でも、スコットランドのヘブリディーズ諸島などでは、ピートを熱源にしている家庭があります。

ピートが堆積しているのは、スコットランド北部など寒冷地の湿原で、どこにでもあるわけではありません。日本でもピートは採れますが、北海道の石狩平野など一部地域に限られます。

ピートは15センチ堆積するのに約1,000年かかるといわれます。それらを湿原から切り出し、3~4カ月かけて天日干しで乾燥させます。この乾燥させたピートをウイスキーの製造で利用します。

ピートの香りがウイスキーにつくのはなぜ?

スコットランドで作られるウイスキー、つまりスコッチウイスキーでは原料となるモルト(大麦麦芽)を乾燥させる工程で、ピートを熱源にしてきました。かつては蒸溜所ごとに製麦(モルティング)を行い、キルンという乾燥塔でピートを焚いて独自のモルトを作っていたのです。

現代では熱源に用いて乾かすというよりも、ピート由来の香りがついた原料「ピーテッドモルト(ピーテッド麦芽)」を作るためにピートが焚かれます。ピートでいぶすことによって、大麦にピートの香りがうつるわけです。これがスコッチ、特にアイラウイスキーなどに代表される薬品臭やスモーキーと称される焦げ臭のもととなります。

ピーテッドモルトはウイスキーのスモーキーフレーバーの源流となるもので、基本的にはピートを焚きしめたモルトを使わなければ、スモーキーさは生まれません。

近年、ピーテッドモルトの製麦は「モルトスター」と呼ばれる製麦専門業者に委託するのが一般的になり、手間のかかるモルト作りを行う蒸溜所は数えるほどしかなくなりました。しかしながら、モルトスターに依頼する際はピートを焚く時間や量などを細かく指定したレシピを渡しているので、蒸溜所ごとの個性は保たれています。

スモーキーさは数値で分かる?ピートの個性はどのように生まれるのか

ピーテッドモルトの特徴は産地や乾燥、焚く時間、焚くタイミングなどによって大きく異なります。これらを使い分け個性豊かなピート香を持つウイスキーができあがるのです。

ピーテッドモルトには、ウイスキーのスモーキーな風味に関係しているといわれる、「フェノール化合物」という物質が含まれています。その含有量は「フェノール値(ppm)」という数値で表されます。

フェノール値はウイスキーのスモーキーフレーバーの傾向を知るのに大変役立ちます。一般的にピートによる乾燥レベルが低いものでフェノール値10ppm程度、中くらいで25ppm前後、40ppmを超えるとよく乾燥した「ヘビーピート」が使われているとみなされます。

スモーキーフレーバーで知られるウイスキー銘柄で示すと、「ボウモア」なら20~25ppm、「ライフロイグ」なら40~50ppmという具合です。

ただし、フェノール値はあくまでも目安であり、実際に飲んだときのスモーキーさとは必ずしも一致しないので、数値はあくまで参考にしておくのがよいでしょう。ウイスキーの風味はたくさんの要素が絡み合って成り立つため、フェノール値が高くても完成したウイスキーのスモーキーさは穏やかに感じられることもあります。

スモーキーフレーバーの違い

燻(いぶ)したような香りを持つウイスキーを「スモーキーなウイスキー」といいますが、「スモーキー」には複数の意味合いがあります。主にウイスキーのスモーキーさといえば以下の3つに分類することができます。

ピーティー

燻したような香りのなかでもとくによい香り。燻香(くんこう)。 

メディシナル

正露丸など薬品のような香り。ヨード香。

ハーシュ

あまり感じのよくない香り。

一般的に、草花が多い地域のなどで採れる植物主体のピートを使うとアロマティックで甘さを感じるスモーキーさを生み出し、沿岸部などの海藻などが主体となっているピートを使うと、ミネラル由来のヨード香を主としたスモーキーさが生まれるとされています。

ピート香がたのしめるおすすめウイスキー

スコッチウイスキーのなかでも、アイラ島やスコットランド北西に浮かぶ島々のアイランズで造られているシングルモルトウイスキーには、ピート香が特徴的な銘柄が目立ちます。

ここではsaketryでおすすめのピート香が楽しめるウイスキーを紹介します。

燻酒 アイラ シングルモルト

110371.2.jpg?1720408974871

香り立つ薫香。ソーダで割っても、いささかもブレない芯のあるウイスキー。日本人にもっとも馴染みのある飲み方がハイボールだとしたら、そのためのウイスキーは何があるだろう。この素朴な疑問に、弊社では「アイラ・ハイボール」という一つの解答をご用意いたしました。何よりも香りが重要と考え、アイラ産のシングルモルトウイスキーを厳選。キリリとした飲み口にこだわって、50度でボトリング。薫かおる故に「燻酒」。このスモーキー・フレーバーは病み付き必至。クセになります。他のどこにもないその個性。尖ったハイボーラーのためのウイスキー。この日、ハイボールの歴史が変わります。

シークレット・アイラ 2019 3年 ホグスヘッド

香り立ちは冬の海岸での焚火を連想させる。軽やかな潮風や牧場の土、ライムピール、パッションフルーツ、針葉樹の葉なども。果実の煙のバランスが絶妙で、爽やかさもあります。

味わいとしてはスモーキーな風味が口中に広がり、熟成した果実のニュアンスも。ドライアプリコットやベイクドアップル、キッパーヘリング、蜂蜜など。フィニッシュも甘酸っぱく長く残ります。

カリラ 2008 14年 リフィル・ホグスヘッド

香り立ちはメディシナル、かすかなピートスモークと切りたてのリンゴ。

味わいはクリーミーで滑らか、スポンジケーキ、スモーキーなバニラ、トーストしたブラウンシュガー、塩辛いリコリスも感じられます。フィニッシュにはほのかなフルーツと、温かみのあるスモーク香が余韻として長く残ります。

To the main pageNext article